第4回 HARUMIさん

※画像は元画像とリンクしております。


VERVE FORECASTからリリースされた、「HARUMI」という、謎めいたアーチストの二枚組アルバムがあります。初見は約2年前、大阪梅田の某中古レコード屋のサイケコーナーにて。そのジャケットには不気味な東洋人系の人物が描かれており、異様な雰囲気が充満。年に数回ある、サイケファンのツボを激しく突く、至福の瞬間でした。しかし、残念なことにこの某店の値段は僕自身の基準中古プライスの4倍。オーラのみを吸収してこの時は退散しました。 しかし、忘れる事の出来ない「HARUMI」。帰宅間もなく、サイケのタネ本「THE FLASHBACK」にてチェック。
表ジャケ 裏ジャケ [An oriental gentleman whose totally weird and freaky double LP, Harumi(Verve Forecast FTS 3030-2)1967 R1, was produced by Tom Wilson.As one would expect, it's full of eastern influence and interesting in place but something of an acquired tast.]
 このような解説なのですが、いまいち説明不足で、実体がつかみきれません。しかし、VERVEで1967年ということは、ヴェルヴェットアンダーグラウンド!!! ということで、気になって仕方がないレコードだったのです。

その後、再び、なんば某レコード店で「HARUMI」を発見。梅田よりは安いがまだ高い。しかし、決死の覚悟で購入。(後にアメ村某レコード店で再々発見。さらに安かったのでショック)この店では確か「DISK1はポップだが、2はヘビーな内容」というコメントがつけられており、さらに期待は膨らむばかりでした。

帰宅し、レコードジャケットを広げると、なんと内ジャケには、謎の日本詞が記載してあるのです。
内ジャケ 故郷の島に春が来る
町の娘は仕事を休み
8日間ザクロの森に
集まり遊ぶ
おい春よ はすの花はつゆにぬれ
美しく光り輝く
水は谷間をかけめぐり
霧は山を包む
カクコウ鳥が鳴いている

あゝ霧が晴れて来た
高い山がそびえ立つ
きのう僕が登ったのはあの山だ
あの頂で帽子を振つたのだ
山から降りて来た
僕は春海だ

世の人々に僕は今
言葉の代りに歌をおくろう
ザクロの森の娘達にも
地震や雷、火事や親父にも
僕は歌をおくろう
かなりきていることは間違いありません。一層不気味さが増してまいりました。

やっぱり日本人がかなり濃厚に絡んでいる事が判明致しました。古い海外日本人ミュージシャンでは、ダモ鈴木や山内テツが思い浮かびますが、それよりも「HARUMI」は古い事になるのでは。と思うと胸がときめくばかりです。

そして、DISK1を聞いてみると、これが、なかなかの佳曲揃いなのです。本 当にいい楽曲ばかりなのです。メロディーも下手にキャッチーになりすぎず、適度なポップ感があって心地良いのです。「HARUMI」はどうやら、ポップなR&Bが好きな人のようで、ベン・E・キングや、STAXのポップな曲的なものが元ネタになっているようです。しかし、声質はもろに日本人。ソウルフルさは微塵もなく、これがよい味を出しています。
そして、演奏はかなり荒々しく、タイトさに欠けているため、B級さが倍増しています。バックはクレジットの限りでは、アメリカ人のようです。さらに、同時期の日本のGSがよく使っている、チープなオルガンがやけに目立ちます。アルバムの路線としてはゴージャスにもっていこうとしているはずなのに、かなりのミスマッチをかもし出しております。そして、エフェクトのかけ方が派手で、Voのエフェクトなど、はっきりいって耳障りな部分があります。ホーンのMIXのバランスも明らかに最悪です。もっとすっきりしたアレンジをしてたら、広く知られたアルバムになったでしょう。でもでも結局はこのままでも素晴らしいアルバムなのです。

なんてことを思いつつ、DISK2に移ると、そこには大きな衝撃が待っていたのです。
DISK2は、オモテ、ウラ一曲づつの構成となっているのですが、オモテ面は、これはよくある、長編つぶやき系の曲。静けさのもと、つぶやきが続きますが、突然、三味線が登場。24分の曲ですが、三味線がフューチャーされていきます。この三味線の響き、リアルタイムの西洋人にはどのように聴こえたのでしょうか。

そして、ウラ面は「SAMURAI MEMORIES」。曲名からして期待させる曲ですが、予想以上の衝撃が。
皆様は、ヴェルヴェットアンダーグラウンド三枚目の「MURDER MYSTERY」の歌詞を直で理解しつつ聴いてみたいと思った事がお有りだと思いますが、この夢をかなえてくれるのがこの曲です。なんと、「SAMURAI MEMORIES」は日本語曲だったのです。
19分に及ぶ曲なのですが、サイケR&Bなサウンドをバックに(これが実かっ こ良い)淡々と、かたことの日本語でHARUMIが語って行きます。「ああ、はる みが、あの、このたび、ええ、れこーどに、にほんむけに、ええ、のせることになりまして、あの、ほんとうに、あの、にほんのかたがたに、はじめてきいていただけるようになるとおもいますけども」と始まり、自分の音楽歴を語ります(三才の時にハーモニカを始めたそう)。そして突然、HARUMIの父親が登場(父親の声は鈴木茂の声に似ている)。10年前にここに来たとの事。5,6年前にHARUMIにギターをかってやったらしい。ということは、HARUMIは在米日本人ということになります。途中から母親も登場。話題はヘアースタイル、ヒッピー論などに展開。HARUMIは侍のちょんまげを引き合いに弁明。ロックンロール論にも展開。大人、両親はロックンロールを理解していないとのこと。ロックンロールは発散だという。
父は、ロックンロールは初めはうるさい音楽だと思い、嫌いであったが「いいのもあるな」と回心したとのこと。とにかく、HARUMIはスタイルで人間を判断されるのが気に食わないようで、大人対子供という図式がこの曲のテーマとなっているようです。HARUMIは十年前に来たので、「日本語がおかしくなってる」とのことです。

残念ながら、HARUMIさんの冒頭の思いはかなわず、日本盤化は昔も今もなされ ていないようです。
リアルタイムの西洋人にこの曲の感想を聞いてみたいものです。さぞサイケだった事でしょう。海外つぶやき系サイケ曲に無念の思いを抱いていた我々日本人には嬉しい限りです。同時に、「日本語のわからない西洋人、この苦しみを味わえ」という思いも抱きます。

あたりまえの事ではありますが、歌詞が理解できること、曲と一体化して味わえる事はいいものですね。これって、洋楽リスナーの究極の矛盾ですね。

このレコードを聴かない訳にはいかないでしょう。早速レコード屋に走り「HARUMI」を見つけて下さい。
HARUMIさんは、DISK1で本当に良い曲を書いていらっしゃいます。しかしながら、1967年という時代によって上記のようなアレンジ、そしてアルバムに仕上げられてしまったのでしょう。結局パッとせず消えてしまったようです。もしHARUMIさんがあと5年遅くデビューしていたらロック史に大きく名前が残っていたかもしれません。偉大な才能が時代によって埋もれてしまった一例でしょうか。サイケカルチャーの弊害ですね。でも、これはあくまでもメインストリームとしてのロックとして考えることであって、このアルバムは、サイケのカテゴリーとしては絶品です。この埋もれた大名盤を世に広めて行きましょう。これが我々の使命です。おそらく、どの本にも紹介されてませんので。

しかし、HARUMIさん、いいものを残してくれました。ぜひお会いしたいです 。

(98.8.30.)


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