第5回 BOB LIND

※画像は元画像とリンクしております。


SONNY&CHERは「I GOT YOU BABE」や「THE BEAT GOES ON」で有名な夫婦フォークロックデュオで(後に離婚されますが…)、皆様もよく御存知かと思います。その妻のCHERはデュオの時代よりソロ活動を行い、60年代には旦那の協力のもと素晴らしいレコードを作っております。「BANG BANG」はメロドラマ的な名曲ですね。

CHERの声は、ジェファーソンエアプレイン時のグレース・スリック〜ニコの系譜に列なるものでしょう。60年代のCHERのソロアルバムは、ジミー・ペイジプロデュース、ニコの「I'm not sayin'」(イミディエイトのシングルコレクションなどに収録される、奇跡の名曲)の世界をアルバム化したかのような仕上がりとなっております。それらは素晴らしいアルバムばかりで、個人的には旦那とのアルバムよりも格段に気に入っております。

そして、60年代のCHERの素晴らしいアルバムの中でも特に秀逸なのが「THE SONNY SIDE OF CHER」(IMPERIAL LP−9301)です。ちなみにこのアルバムのCDは残念ながら現在廃盤のようです。
このアルバムには「IT'S NOT UNUSUAL」という本当に素晴らしい曲が収録されているのですが(是非御一聴を!)、この曲のライターはなんと「G.Mills−L.Reed」となっているのです。「G.Mills」はともかく「L.Reed」とはあの「L.Reed」なのでしょうか?

あっさり問題は解決いたしました。この曲はトム・ジョーンズの有名な曲(邦題は「よくあることさ」)らしく、他にも多くカバーされた有名曲だったのです。そして、「L.Reed」なる人物もどうやら全くの別人みたいで、ハーマンズハミッツ、カーペンターズでおなじみの「THE KIND OF HUSH」の原作者だそうです。最近300円で購入した森山良子のカバー曲アルバムに収録されている「THE LAST WALTZ」という曲の作者も「L.Reed」で(この曲も良いのですがオリジナルは現在特定出来てません。情報をお待ちしております)、この「L.Reed」はかなりの凄腕作曲家のようです。「ルー・リード」とは別人ということで残念でしたが、こっちの「L.Reed」も要チェックですね。
またこのアルバムには「BANG BANG」や「イパネマの娘」「LIKE A ROLLING STONE」のカバーなども収録されております。

さらに極めつけとして、激しすぎるドラムが炸裂する上に極上のメロディーが乗るという、90年代のキャッチーなパンクバンドを30年も先取りした万人必聴の名曲「COME TO YOUR WINDOW」が収録されています。(パンクな友人もこの曲には殺られてました)

この「COME TO YOUR WINDOW」の作者がBOB LINDだったのです。これがBOB LINDとの最初の出会いでした。「COME TO YOUR WINDOW」を聴いてからというもの、作曲職人なのか、シンガーなのかも分からない、得体の知れないこのBOB LINDの存在が自分のなかでどうしようもなく大きくなっていった訳であります。
こういう時に役立つのがタワーの検索機です(前述の「IT'S NOT UNUSUAL」も勿論この手段を使用)。検索の結果、BOB LINDはシンガーでした。ベスト盤も出てました。

しかし、あんな名曲を書くシンガー、BOB LINDについて、雑誌やフォーク、フォークロックの紹介本などで見かけることは今まで一度もありませんでした。あまり評価がなされていないシンガーなのでしょうか?兎にも角にも音源を聴くまではわかりません。

それからしばらくBOB LIND のCD、レコードは見つけることができなかったのですが、探し始めて半年後、偶然立ち寄った梅田の中古レコード店にてレコードを発見し、即買いしました。そんなに高価なレコードでもなかったのです。ジャケットには、ギターを抱えた純朴ながらも冴えないシンガーの写真が大きくありました。これがBOB LINDか!と大感激したものです。(後にわかったのですが、これは1stでした。)

早速聴いてみると、なんとなんと予想を越える本当に素晴らしい曲の連続なのです。とにかく曲が美しく切ないのです。ミック・ジャガーとディランにルーリードを加え、柔らかくしたような声はアシッドフォーク的でもあります。実はこのアルバムのプロデューサーはジャック・ニッチェ。BOB LINDのこのアルバムは、あのWALL OF SOUNDのフォーク版だったのです。とんでもないシンガーを知ってしまったと、これまた感激いたしました。

このアルバムの冒頭に収録されている「ELUSIVE BUTTERFLY」はどこかで聴いたことがある曲だと思ったら、「COME TO YOUR WINDOW」と同アルバムに入っていた曲だったのです。「COME TO YOUR WINDOW」に気を取られ過ぎて気が付かなかったのです。

この「ELUSIVE BUTTERFLY」は大ヒット曲だったということを後に知りました。「夢の蝶々」という邦題で当時日本盤も出ていたようです。全米の過去のヒット曲を編年体で紹介する本(はっきりした書名は忘れましたが)にBOB LINDの記事を見つけました。1966年3月12〜19日にかけて「ELUSIVE BUTTERFLY」はビルボードチャートの5位になっており、一時はポストディランといわれたそうですが、続くヒット曲がなく消えていったシンガーだということです。そして「ELUSIVE BUTTERFLY」については、「フォークロックと呼ぶにはソフィスティケイトされた曲。イントロのギターに続いてボブのVOは優しさに満ち溢れている。ストリングスの響きも心地良い。ソフトロックとフォークロックの架け橋的存在」と評されています。また、自作デモテープを自ら売り込み、リバティレコードが興味をしめし、リバティ傘下のワールドパシフィックよりデビューしたとのことです。また「ELUSIVE BUTTERFLY」のバックにはレオン・ラッセルが参加しているようです。(「ELUSIVE BUTTERFLY」はThe Blues Project, The Yardbirds, Arethra Franklin, Glen Campbell, Cher, Lou Chritie, Dolly Partonなどがカバーをしているようです。)

この後、続々とBOB LINDのアルバムを発見することができました。前述のものも含め計4枚のアルバムを入手しました。実はこの4枚でBOB LINDのアルバムは総べてのようです。なんと、ネット上にてBOB LINDのサイトを発見したのです。そこに詳細なディスコグラフィーがあったのです。これには大変驚きました。
本文を書くにあたってサイトを今一度確認しようとしましたが、つながりません。
消えてしまっている可能性がありますがURLをのせておきます。
1.http://www.geophysics.dias.ie/~gb/html/lind.html
2.http://atlas.cp.dias.ie/~gb/html/update.html
    (URLが二つある?詳細不明です。)
当方で完全保存してありますので、ご希望の方はお申し付け下さい。転送いたします。

このサイトにBOB LINDに関する情報はほぼ網羅されているものと思われ、このサイトを見ていただければ一発で事は済みます。

あえて抜書きすると、BOB LINDは現在、アメリカのフロリダに住んでおり、WEEKLY WORLD NEWS紙へ執筆をしておられるそうです(何について書いてるのかは不明)。また、ミステリー小説を最近書き終えられたようです。なんと、このことはBOB LINDよりサイトに直にメールが届き、伝えられたことだそうです。このサイト名は「THE UNOFFICIAL BOB LIND WWW INFOFEST SITE」というのですが、BOB LINDがこのサイトを見つけ、メールを送ったために「OFFICIAL」に認定された模様です。このサイトは熱狂的BOB LIND信仰者のためのページなので大変熱い内容となっております。是非御覧下さい。

BOB LINDのレコードの権利はワールドパシフィックのみならず、何故かライバルレーベルだったVERVEにもあったようで(詳しい経緯は分かりませんが)、二つのレーベルから同時期に作品をリリースするという非情にややこしい状況が生じています。実際1966年にはアルバムが二つのレーベルより出ており、シングルも同 様のようです。

しかし、両方ともにリンドさんの魅力は爆発しております。
さらに、リンドさんは1966より、お薬とお酒にハマられていったようです。複雑な契約の疲れでしょうか。

そして、突如71年に出たアルバム「Since There Were Circles」はレーベルも移籍して気分一新のはずだったのでしょうが、残念ながら時すでに遅し。時代はリンドさんを受け入れなかったのであります。この後再び「ELUSIVE BUTTERFLY」をシングルでリリースし、シーンから消えてしまうのです。この「Since There Were Circles」は、アカペラから始まる、リンドさんとしては骨太な好アルバムなのですが…。

単純な比較は出来ませんが、僕はディランよりもリンドの方が断然好きです。
決して一発屋ではない、リンドさんのパーフェクトな再発を心より願っています。

結局、「COME TO YOUR WINDOW」はリンドさん自身が唄った曲ではなく、CHERに書き下ろした曲のようです。CHERのソロアルバムをリリースしたレーベルIMPERIALはリンドさんのレーベル、ワールドパシフィックと兄弟関係にあり(親会社はリバティ)、ジャック・ニッチェとCHERの旦那SONNY BONOの縁もあって、時の人であったリンドさんはCHERに曲を提供したのでしょう。しかし、本人に唄って欲かったです。

ここで、ディスコグラフィー。無断転載ですが。

SINGLES:
Roads of Anger b/w To my Elders With Respect. Oct 1965.
Elusive Butterfly b/w Cheryl's Goin' Home. Nov 19 1965.
Remember The Rain b/w Truly Julies Blues (I'll be There). March 25 1966.
Wandering b/w Hey Nellie Nellie. May 30 1966.
San Francisco Woman b/w Oh Babe Take me Home. August 1966.
White Snow b/w Black Night. Sep 26 1966.
It's Just my Love b/w Goodtime Special.March 17 1967.
Goodbye Neon Lights b/w We may Have Touched. Jan 1968.
She can get Along b/w Theme From the Music box. Aug 23 1971.
Elusive Butterfly b/w Truly Julies Blues (I'll be There). Nov 1972.

EP's:
Don't be concerned (Feb 1966). Side 1: 1. Elusive Butterfly 2. Cheryl's
Goin' Home 3. Dale Anne. Side 2: 1. You Should Have Seen it. 2. Counting. 3.
Truly Julies blues.

ALBUMS:
《Don't be concerned 》(Feb 1966).
Side 1: 1. Elusive Butterfly 2. Mister Zero. 3. You Should Have Seen it. 4. Counting. 5. Drifter's Sunrise. 6.Unlock the Door. Side 2: 1. Truly Julies Blues. 2. Dale Anne 3. The World is Just a "B" Movie. 4. Cheryl's Goin' Home. 5. It Wasn't Just the Morning. 6.I Can't Walk Roads of Anger.
このアルバムは本当に充実した曲が揃っております。リンドさんのメロディーには心打たれます。大ヒット曲A−1のみならずA−3、5、B−1の切なさには涙するでしょう。とにかく飽きるということがありません。リンドさんのアルバムをかけっぱなしにするのは最高に気持ち良いです。楽器の絡みといい、アレンジが絶妙。さらに、小さくバンジョーの音を入れてまして、これが効果大です。まさに奇跡の名盤と呼ぶ にふさわしいでしょう。ここまでストリングスが美しく響き、かつゴージャスになり過ぎず、リンドの声質も最大限に生かすアレンジは、Wall of Soundの一つの完成形だといえましょう。リンドさんは70年代のニルソン等のシンガーソングライターの先駆的存在と位置付けられるのでは。B−4なんかは同時期のガレージサウ ンドに通じるものがあります。ガレージバンドのアルバムに何曲か入っている、キャッチーなフォークロック的な曲をイメージしていただければよいと思います。


《The Elusive Bob Lind》 (May 1966)
Side 1: 1. Fennario. 2. Wandering. 3.The Times They are a Changin'. 4. Black Night. 5. White Snow. 6. Cool Summer. Side 2: 1. Hey Nellie Nellie. 2. The Swan. 3. What Color are you ?4. Gold Mine Blues. 5. Hard Road.
前述の通り、二重契約の産物です。1stをかなり意識した音作りがなされていますが、ジャック・ニッチェのプロデュースではないため、ストリングスのアレンジは前作とは比べ物になりません。相変わらずリンドさんの曲、声は冴えています。ギターが前に出るシンプルなアレンジが随所に見られ、前作に比べフォークシンガーとしてのリンドさんが強調されているようです。また、内向的な暗い曲が増えます(リンドさんのメロディーの良さは、適度な暗さに見え隠れする美しさにあると思います)。
聴きどころはB−3でしょう。同じリフが最後まで永遠繰り返され、呟き系のVOが絡む、ベルベットアンダーグラウンド的な名曲です。リンド風アシッドフォークといったところでしょうか。


《Photographs of Feeling》 (August 1966)
Side 1: 1. San Francisco Woman. 2.A Nameless Request. 3. West Virginia Summer Child. 4. Go ask Your man. 5. Remeber the Rain. Side 2: 1. I Just let it Take me. 2. The World is Just a "B" Movie Meets Reno Funtown USA. 3. We've Never Spoken. 4. Oh Babe Take me Home. 5. Eleanor.
このアルバムは楽しいオールドアメリカンな曲A−1から始まります。少しイメチェンしたかと思いつつもA−2からはいつものリンド節です(よかった)。夢見心地な音です。さすがジャック・ニッチェですね。カントリー的アプローチが多く見られるのが3rdの特徴だといえるでしょう。バンジョーが比較的大きくMIXされる曲が増えます。2ndでは、ギターが前に出る曲もあったのですが、1st同様、3rdでは全くなくなります。両方ともかなりジャック・ニッチェによって作られたっぽいですが、勿論結果は良しです。
本人はどうだったのでしょうか?


《Since There Were Circles》 (April 15 1971)
Side 1: Medley: a. I Love to Sing b. Sweet Harriet. 2. City Scenes. 3. Love Came Riding. 4. Loser. 5. Not That I Would Want her Back. 6. Theme From the Music box. Side 2: 1. Anymore. 2. Spilling Over. 3. She can get Along. 4. Up in the Morning me. 5. Since There Were Circles.
問題の4作目です。ライナー付きで歌詞も楽しめます。A−1のアカペライントロには驚きました。明らかに声に粘りが生じてます。続くのは「ELUSIVE BUTTERFLY」のカントリー風焼き直し。大滝詠一セルフカバー的です。A−2はベースが最高(Carol Kayeです)。A−4はサザンロック風です。またA−5は同時期のフェイシズ、ストーンズ風。このアルバムは今までの基本リンドさんメロディーに70年代初期のロックサウンドが乗るというなかなかの好盤に仕上がっています。しかし、地味なイメージは拭いがたいと思います。結果的に最後の曲となってしまったアルバムタイトル曲B−5はアコギ一本で唄うリンドさんが聴けます。フォークシンガーであったはずなのに、この曲が唯一のベタなフォークソングとなってしまったリンドさんは本当に不思議で魅力的なフォークシンガーです。



(98.10.3.)


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